【ブログ】骨太の方針2018を考察する:財政再建は本当にできるのか?


18年6月15日に、政府・与党は経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針2018」を取りまとめ、いわゆる「骨太の方針2018」を閣議決定しました。

各報道機関が取り上げていますが、注目度が高い財政健全化計画についてまとめたものをお知らせしたいと思います。

日経新聞の記事はこちら

 


財政健全化目標とプライマリーバランスの黒字化目標の先送り


政府は新しい財政健全化計画について、従来は2020年度に黒字化するとしていたプライマリーバランス(以下、PB)を2025年度に先送りするとしています。

また、次の三つの財政再建目標を設定しました。

PB黒字化目標…2025年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支を黒字化する
財政赤字(対GDP)目標…財政赤字の対GDP比を3%以下とする
債務残高(対GDP)目標…債務残高の対GDP比を180%台前半とする

この目標は達成可能なのかということですが、個人的には難しいと考えています。

なお、PBは、国債発行収入を除いた歳入(*)と、国債の利払いと償還費を除いた歳出(**)の差となります。
(*)歳入の内訳は、税収、国債を発行したことから得らえる公債金、その他の収入となっていますが、ここでは税収とその他の収入の合計になります。
(**)歳出は、社会保障費や地方交付税交付金や公共事業などの基礎的財政収支対象経費と利払いや償還のための国債費の合計となっていますが、PBさん出場の歳出は基礎的財政収支対象経費になります。

 


「経済再生なくして財政健全化なし」は正しいか?


1.名目GDPは増加し続けるか?

日本の財政は以下の関連記事でもお知らせしていますが、財政赤字が続き、毎年30兆円以上の公債を発行しています。そしてその累積した借金は1,000兆円を超える水準となっています。
(ご参考)関連記事:【ブログ】イタリアより日本は深刻(日経:大機小機)を読んで(18/6/2)

政府の考えは、上述した債務残高目標を例にとると、

A債務残高/B名目GDP

について、積極財政の結果としてAが増加してもBが増加していれば問題ないということにもなるのです。
確かに、Bが増加していれば問題ないかもしれません。でも本当にBは継続し続けるのでしょうか??

2.AとBの構成要素

AとBの主な構成要素は以下の通りになると考えられます。
A:税収、社会保障費、金利
B:労働投入量、生産性、資本投下量

Aについては
・積極財政の結果、税収は増加することが見込まれるので、債務残高の減少要因
・社会保障費はどう考えても増加するので債務残高の増加要因
・金利は基本的にはこれ以上下がらないので上昇するとみるのが妥当なので債務残高の増加要因
と考えられます。
つまり、Aでは、税収の増加がカバーしないとならない、つまり、経済が成長し続けなければならないということになります。

Bについては、
・労働投入量は少子高齢化を前提とすると減少要因。ただし、今回の骨太の方針では「外国人材の受け入れ」を行うとしている。この効果は不明だが、外国人材受け入れ分は増加要因
・生産性はAIなどにより生産性は大きく向上する見込みであり増加要因となる。これなくして、日本の経済は維持もできない
 (それだけに国も「Society5.0」などとする経済構造革新を図ろうとしています。参考資料はこちら
資本投入量は不明。生産性を上げるためのIT投資は行われているようだが、新たな生産を拡大するような設備投資はそれほど増えてはいない。2053年に1億人を割るとされる国内への資本投入量が増加するとは少なくとも期待しにくい
と考えられます。
つまり、労働投入量は減少、生産性は向上、資本投入量は不明というのですが、これが大きく増加し続けるとは考えにくいです。

ここ数年はアベノミクス、円安、日米欧金融緩和、オリ・パラによる経済効果などが経済を押し上げてきました
この先はどうなのでしょうか?

Aの増加が見込まれる中、Bが減少した場合、日本財政は大きな危機を迎える可能性が極めて高い状態になると思います。

どちらがいいのでしょうか?
現在を盛り上げて、この先危機を迎えるリスクを取るのか、現在は少し厳しくても、この先のリスクを減らすのか・・・
私自身は現在のシナリオには無理があるため、後者が望ましいと考えています。


経済成長(中長期の経済財政)のシナリオ


政府は中長期の経済財政に関する試算というのを公表しています。そのポイントをまとめた資料はこちらで確認できます。

1.中長期の経済財政見通し

その資料では、中長期の経済見通しを以下の通りとしてます。

成長実現ベースとベースラインケースがありますが、右上の名目GDP成長率の表を見ると、成長実現ベースで3.5%の経済成長を続けることが前提となっています。2018年の見込みが2.5%となっていますが、今年以上の成長拡大がこの先も続くという見通しが2025年のプライマリーバランスが黒字化するという前提となっているのです。

2.1の前提に基づく各指標の推移

そして、上の表を前提とした、
①PB黒字化目標
②財政赤字(対GDP)目標
③債務残高(対GDP)目標
が以下の表となっていました。左の表を見ると、この時点では2025年にはまだ黒字化するとはなっていません。

3.1の前提に基づく名目GDPの水準

この中長期の経済財政シナリオの名目GDPは☝で3.5%で成長続けることになるとしましたが、下の表ではそのGDPがどのくらいの水準で推移することになるかをご確認いただけます。

これまで、500兆円台でしか推移していなかった名目GDPが2025年には707.3兆円になると試算した結果が今回の骨太の方針で目標としたPBの黒字化の前提となっています。

本当にこうなるでしょうか?

4.新たな計画におけるPB対GDP比試算結果

以下の表が、新たな計画におけるPB黒字目標を示した表となります。資料はこちらです。

上記の2で示したものがオレンジ色で示されたグラフになります。
今回の計画では改革による歳出効率化を織り込んで青色のグラフになるとしているようです。景気回復が鈍化した場合でもピンクのグラフでPB黒字化を達成するとしています。


個人的な見解


この前提で、経済が拡大し続け、債務残高は増加しても比率は低下していく、という状況が本当に続くのならばそれもありかもしれません。

しかし、経済成長が続かなかった場合、それまでの積極財政などは将来の負担になる可能性があります。うまくいけばよいですが、失敗すればその反動は大きくなります。

アナリストとすると、成長性、健全性、収益性を企業分析の軸とするわけですが、高度成長期ではない現状の日本を分析すると・・・
国をアナリストとして分析することは適当ではないかもしれません。それでも、最優先事項は借金して成長性を確保することではなく、健全性を確保する方がよいという見方を抑えることはできません。

もっと財政規律を重視する運営の方が次世代を担う子供たちにとってより良い環境になる確率が高いというのが個人的な見解です。

 


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